2024年11月10日
突如謎の書庫に迷い込んだ「あなた」。書庫の住人との出会いの話。
――ここは……どこだろう……?
目覚めると、暗い暗い部屋にいた。反響がない、どこか窮屈で落ち着いた部屋に。
自分はおもむろに立ち上がり、まずは部屋の明かりを探した。壁は無いかと両腕を横に伸ばし左右前後に動く。すると、真正面から凹凸のある物にぶつかった。思わず尻もちを着いてしまった。更に、その物の中から様々な物が降ってきた。近くに落ちた1つを手に取る。
ざらざらした側面。中には無数の紙。どうやら本のようだ。周りに落ちているのも他の本なのだろう。ぶつかった物の正体は本棚であった。
気を取り直して、本棚を伝って部屋を歩く。前に手を伸ばしてみると、スイッチのような物を発見した。もしかしたらと押してみると、思った通りに部屋の明かりが着いた。この部屋は壁に本棚が並んだ小さな書庫であった。
書庫の本を少し調べてみよう。すぐ隣にあった赤い本を取り出して開いてみると、物語のような文が書かれていた。
『「それでも私、あなたと一緒に生きたいの!」茜の言葉は汐風に乗って響く。「っ……」彼は今度こそ目を背けず、茜の目を見てはっきり言った。「俺もお前のことが好きだっ!!!大好きだ……!!でもっ!!」』
恋愛小説のようだった。元の場所にしまい、別の場所から次の本を取り出す。
『「大佐……私、大佐のためならなんでもします……」彼女の心細い声がエルを煽る。「なんでもするって、言ったね?」こくりと頷いたのを確認して、アールの肩を強く掴んだ。』
次の文章が見えた瞬間本を勢いよく閉じた。ダメだ。自分には如何せん刺激が強すぎる。次の書物を読もう、茶色い分厚い書物を引き出そうとするも中々出せない。思い切って引っ張ると、抜けたと同時に本棚から無数の書物が落ちてきた。
そのまま自分は書物の海に埋もれてしまった。
その頃、羽を生やした銀髪の少女とローブを着た赤黒い髪の人間が物音のした部屋へ向かっていた。
「アリス〜、どうする?開けたら天界からの迎えがー!!ってなったら」
『アリス』と呼ばれた銀髪の少女は肩を一瞬跳ねらせてから言い返す。
「そ、そんなのあるわけないじゃないですか!!シュリナだって、急にお母さんが出てきて元の世界に帰っちゃう〜とか……」
「いや、それはないでしょ。そもそもボク家族のことすら覚えてないし」
「お母さんを見た瞬間記憶が蘇るーとか、あるかもしれないじゃないですか」
「ありえんありえん」
「ありえるかもしれないじゃないですか!!!」
「……ぷはっ」
アリスの必死な返しに『シュリナ』と呼ばれた人間は思わず笑いを吹きこぼした。
「確かこっちから物音が聞こえたんだよなぁ〜……お、ここかな?」
談笑しているうちにとある部屋の扉へ辿り着いた。
「この部屋は……恋愛や官能ものをまとめた書庫ですよね。ここの本は刺激が強くて読みたくないんですけど……」
アリスが扉から目を逸らして言う。そんな彼女のことも気にせずシュリナは扉に手を当てる。
「?!ちょっと待ってください!中に化け物でもいたらどうするんですか!!」
「大丈夫だってー!仮にいたとしても、簡単にやられるほどアリスは弱くないでしょ?」
含み笑いでアリスを見つめるシュリナ。その目は不安もない、アリスだからこそ向ける目であった。
「わ、わかりました……なら私が開けます。あなたに何かあってもいけないですから」
「ん、じゃあお願い」
扉の前をアリスに明け渡す。扉に手を当て、何かを唱えた。
「管理人の命令に従い、開きなさい」
ドアは、光を出して静かに消えた。
「おじゃましまーす!あれ、誰もいないね」
「相変わらず埃がすごいですね……物音の正体は……」
どこからか二人の少女のような声が聞こえる。だが声以外は何も分からない。物音を起こした当の本人は、大量の書物に埋もれて身動きが取れなくなっていた。
「あ、ここ大量に本が落ちてますね」
「ホントだーって、大量どころじゃないよ!本棚にしまうの大変なんだからね?!もー!!」
本の山に気づいてくれたのだろう。正直今すぐここから出してほしい。助けを求めるため、声を出した。
「うわっ、なんか声しなかった??」
「少し……しましたね。人語ですかね、化け物ではないでしょう」
足音がこちらに近づいてくるのが分かる。気づいてもらうため必死に声を上げる。
「やっぱり人です!すぐ出しましょう!」
「誰かわからないけど今出すからねー!苦しいだろうけどちょっと頑張ってね!!」
2人が作業を始めたのか、腹に乗った重みがなくなるのを感じる。作業ペースが素早く、微かな光が見え始めた。
「足が見えた……!あと少し……」
「もうすぐで終わります!」
一気に書物をあげられ、遂に書物の山から抜け出すことができた。
「よっと、これでおしまい!ここの本は……そのままでいっか!」
「管理人が作業放棄していいんですか……それはさておき」
二人の少女がこちらを見下ろす。羽が生えた天使のような少女に、黒いローブの少女。黒いローブの少女がこちらを凝視すると、腕を組んで言った。
「んー、ちょっとお茶でも飲んでゆっくりしようか」